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「ゆれる」 西川美和監督 [君にMOVIEを!]

本当に映画に興味がいかなくて。
ビデオ屋にも滅多に行かないが、選挙に行った後の時間をゆっくり過ごしたかったので。

久しぶりに、少し頭を回転させたような。
というより、「この映画は裏切らない」という直感が働いて。


「ゆれる」 西川美和監督

その映画のタイトルの如く、感情の「ゆれ」のさざ波。
「吊橋での偶然」から始まる「ゆれる」物語には、狂いだすものは無く。
予め、存在していたものの答えあわせのような。そんな心地。

歯車は狂ったのではなく。
最初から無かったものだったのですね。

問題用紙と解答用紙。
幾つかの定義と幾つかの答えを明確にしながら、物語が転がる。

僕も容易に想像出来る、平凡と言えばそれまでの、「型にはまった田舎の長男」の描写は、
優しく、それでいて実直なまでの姿をリアルに表現していた。
田舎のガソリンスタンドの風景など、予測もつかない紆余曲折も無く、
10年先も、20年先も。その場所にあるだろうという、当たり前感。

そこに存在する人間もまた、当たり前に繰り返される日常に「?」を感じながらも、進む時間の針。

しかしながら、吊橋の偶然から、時間軸は揺れ始める。
全ての感情が揺れ動き。
吊橋の不安定な様相の話かと、それは大きな間違いだったと。

途中が、揺れているような錯覚をするのは、脚本の素晴らしさ以上に存在する
香川照之の演技は圧巻の極み。

弟を演じるオダギリジョーもまた、その香川照之に牽引され、
時に並ぶ末の感情の闘争を繰り広げるわけで。

兄が思う「自分とはまったく違う」という嫉妬にも似た、羨望の感情。

しかし、「初めから疑って、最後まで信じることが無い男」にとっては
周りが思う自由は、さほど自由ではなく。
むしろ、それが優雅に見えようとも、自分の本質であるものを殺している以上、
東京での栄華も、それは蜃気楼にしかすぎず。

それは自分でありながらも、違う自分が行う「作業」のようなものにも似て、
感情の通わないものが、間違いなくそこにはあるわけで。

弟は、兄との時間の交錯の中で、
都会に塗れた気付かないでいた感情の真相に気付いたりだとか。
自分は、何も変わってないはずなのに、変わったかことを見抜かれたこと。
また受け入れ難い本質を射抜かれたこと。

時間の隙間には、映画の中には存在しない元々の兄弟の空間のような
そんな空気まで感じれるのは、本当に素晴らしい。
言葉の節々に転がる幼き時分から続く、兄弟の足跡。

兄がどこまで自分の感情を、完璧な形で言葉にしたのか?
どこかに嘘があって、どこかに優しさがあるのではないか?とか、
これがどの感情から来る言葉なのか?だとか。

しかしながら、何が正しくて、何が間違ってるかというものではなく、
何があのようなラストシーンを迎える感情になったわけではなく。

裁判というフィルターの中で、出演者全ての感情が揺れ動いてるように見えるが。
実際の答えはそこには無いと思う。

裁判というフィルターを使うことで稀な話にはなっていたが。
ありふれた関係の交錯する中で、吊橋で起こったこと。
幼き時分の兄の優しさと、今の優しさ、そして記憶と現実が交錯する瞬間の慟哭にも似た感情。
様々な伏線の果て。

あのラストシーンは美しい。

「揺れてる」と思ったのは、実は錯覚で。
あの美しいラストシーンで、理解する僕の感想は、
この映画にはどこの歪みや曲線は無く。

実は、本管は同じ場所に立ちながら、
映像を見た時の、翻弄だとか葛藤だとか焦燥だとかの「ゆれ」に対して、
全てが揺れていると錯覚すること。

初めから、何も変わっていない兄弟の物語。
互いの感情は揺れて芽生えたものではなく、最初から存在していた感情なのではないかと。
つまりは最初から揺れは存在していなく。
たとえ、吊橋の偶然が無くても、いつか必ずどこかで交錯する兄弟同士の感情。

最初から理解していた兄と、見失っていた弟の感情の欄干。
風のざわめきなど物ともしない「揺れない」吊橋があっただけのこと。

この映画、揺れる危うさの吊橋というよりは、
受け手の気の緩みが何か大切な言葉を、空気を落としてしまうのではないかという危うさ。

この映画を渡るには、緊張感がいるということ。


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コメント 10

ひいらぎ

いい映画だったねー。
2人のぶつかり合い。怖かった。
by ひいらぎ (2007-04-22 21:24) 

みっきーを

西川監督の前作「蛇いちご」もいいですよ!
by みっきーを (2007-04-23 01:19) 

ルースターズ

>ひいらぎ様
面白かったですね。
ラストシーンで疑問が晴れる。

この映画が面白いなと思う自分に乾杯(笑
好みでした。
by ルースターズ (2007-04-24 07:45) 

ルースターズ

>みっきーを様
鑑賞してみたいと思います!
by ルースターズ (2007-04-24 07:46) 

ushimadness_sugar

niceありがとうございました。

この映画、見たかったのです。香川照之さんが特に。この人なんだか、物凄く印象に残る役者さんだと思ってたので。
私の好きな小林信彦さんが著作中で誉めていたのを読んでから、いっそう気になってました。さっそくGW中にでも鑑賞しようかな、と思ってます。
by ushimadness_sugar (2007-04-24 18:05) 

ルースターズ

>ushimadness_sugar様
いえいえ、僕はマッドネスが好きでしてね。
昨年のフジロックは本当に・・・。
スペシャルズよりも、マッドネスが先に僕のSKAの入り口だったので。

この映画。
本当に素晴らしいです。
揺れながら彷徨いながら、自分なりの観点が見つかれば。
それが一番かな?!って思います。

GW。
東京タワーを鑑賞しに行って来ます・・・。
by ルースターズ (2007-04-27 07:56) 

むうさん

香川照之、ずっと好きな俳優です。
「ゆれる」。ちかいうちに行ってきます。
by むうさん (2007-05-01 07:57) 

ルースターズ

>むうさん様
DVDですよ♪
だから、ご自宅で思う存分揺れてみてください♪
by ルースターズ (2007-05-01 18:27) 

ミック

2回見ました。
と、いうのも一度目は半分見て、半分は1週間後に見たので、2回目は一気に見てしまいたくて。
全くといっていい程、ラストシーンの捉え方が違いました。
けれど、それは表裏一体でした。
>風のざわめきなど物ともしない「揺れない」吊橋があっただけのこと。
私も同じ事を思いました。
TBさせて下さいネ^^!
by ミック (2007-05-01 21:07) 

ルースターズ

>ミック様
TBありがとうです♪
その1回目は嫌な見方ですね(笑

色んな感情を受け手にゆだねる映画って、苦手なんですが。
確信できないから。
それでも、この映画だけはあのシーンでいろんな気持ちに
なるから少し不思議。

僕ももう1度みたら印象変るかもしれないなって思います。
でも、この感想はコレでOK(笑)
by ルースターズ (2007-05-02 07:38) 

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