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荒木陽子 「愛情生活」 [ROCKな人]

インターネットに蝕まれる生活は、情報過多の21世紀。
必要としないものまで頭の中を巡る訳で。
求めていない情報に塗れ過ぎて、自分に必要なアンテナは機能しなくなるわけ。
しかしながら、多くの選択肢から波及する自分の興味のベクトルは
必然に自分の進化を促すわけで。
それはそれは自分の中には不可欠になってる気がします。
前向き最高。

引越しから手続きなど、津波のように呼吸出来ない応酬の中でも、
夜になるとやっぱり緩やかな時間が生まれて。

随分と昔に買い「いずれみるだろうと・・・・」と
埃を溜めた「座頭市」のDVDセット。
勝新太郎の殺陣に1人興奮してみたり。
梱包している傍から、買い足してしまった数冊の岡崎京子の漫画を見たり。
そんな中で、オシャレ古本屋で出逢った1冊。
「夫婦の在り方」の愉快さと心地よさ、気まずさを感じることが出来る1冊と出逢った。

決して流暢な文章でなければ、胸打つような比喩も無い。
ただ1人の女性が1人の妻が、1人の男1人の夫を眺めながら、覗きながら
ごく平凡な言葉とごく平凡な表現の中に詰まる、ゆるやかで温かみのある時間の経過を
のんびりと書いてあって。

極、夫婦生活の営みであっても、
そこにオブラートは無く、自らの癖までもあられもなく表現出来る当たり前さというが
潔さを通り越した性格の表出は読んでいても、まっすぐで凄く微笑ましい。

写真に愛され、写真によって風景を切り取るのではなく、
写真の中に風景を作る天才「荒木経惟」
1枚の写真の艶だとか、物言わない「物」が雄弁に直接脳みそに訴える強さだとか。
写真に愛された男の貪欲は、今尚それが「アラーキー」だとしか言いようが無い
美しさを孕む。

僕のような稚拙な表現しか出来ない輩が、言葉も使わずそのものを完璧に表現している
人間の事をどう例えることができましょうか。

少し逸れましたが・・・・。
この本の著者こそ、アラーキーが愛した妻「荒木陽子」さん。

今までアラーキーの写真の中で感じる、憧れる夫婦だった様相が、
言葉を文章をそして想いを読んだら、少しばかり天才が人間臭く感じるのは、
結局は人で、愛してる人の前だとか日常の生活の中だとかでは、
何も足さず引かずの中に呼吸をして生活をしているのだと
そう実感出来たりする。

あまりの緩やかな流れの中、続く悠久の流れのはずが、
ぷつりと切れた2人の時間を知ったのは、「冬の旅」
それがあまりにも乾いて冷えていて。
その中に、蛍の光のような鈍くゆれて眩い光が1枚1枚の写真に存在していて。

感情が、写真1枚1枚に陽子さんを想う気持ちが、
確実に映写されているという火が灯っていて。
それでいて、冬の景色がやはり淋しく見えたりして。

そんな夫婦の姿を知りたかったミーハー心。
2人の重ねた時間の断片が陽子さんの言葉でつづられていて。
それが堪らなく切なく、堪らなく羨ましかった。

作文が、誰かの心に残らずとも。
こうやって、2人を知らない人間が、2人の歩んだほんの一瞬の時間の
経過の足跡を感じながら。
まだまだ続く夫婦の旅を自分の中で描いていけるような、教科書のような
少しそんな手ほどきのように想う。

この本を読んで思うならば、
僕ら夫婦は傍から見たら「少し特別な時間」を積む必要を感じるわけです。
付き合っている時には、気を抜かないでしょ?
結婚してしまったら?
子供が生まれてしまったら?

そういったもの。針がチクチクつついてくる。
僕は、彼女はそういった意味で随分とサボっている気がします。

男と女がいたら、サボってしまうと枯れてしまう気がします。
ラブラブである必要性はなく。
そこに互いが特別だと思えるような空間が、この日本に数箇所あるんだなと
そう思えるような場所を作りながら。
僕らは、生きていかなくちゃいけない気がします。

そんな風に。
そう想ってしまう1冊でした。
心に手引き。


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ズルイ…けど、賢くない奴。

岡本太郎氏の奥様(養女)である敏子さん…
【たけしの誰でもピカソ】で、『だって、あんなにステキな男の子とずっと一緒にいられたのよ、 これって奇跡だと思わない?』
…って目をキラキラさせながら太郎氏の事を語る彼女を見てステキだな…って思った。

荒木経惟氏にも…ステキな、とってもタイセツなヒトがいるんだな。
スゲエ情熱を持った天才(違う角度から見たら変態?)
見た目じゃないカッコイイ…
そんな奴(芸術家)にはきっとステキな出会いがあるんだな。きっと…
興味持ったんで今度、読んでみます。
まずは 立ち and 読み で…
by ズルイ…けど、賢くない奴。 (2007-09-06 18:46) 

「愛される人」っていうのは、
「愛されるべき人」に愛されてると思うんだよね。
この二人もそうだったと思っていたいなぁ。

どこかにおらんかね?(笑)
by (2007-09-06 21:35) 

kurohani

「愛情生活」大好きです。陽子さんの文章とっても良いですよね。あの妻あってのあの旦那と言う感じ。やっぱりアラーキーは奥さんの写真が一番良いです。
by kurohani (2007-09-06 22:58) 

TBM

アラーキーの撮る「東京」が好き。
なぜか哀感が漂う「東京」が好き。
残念ながら、「愛情生活」はまだ未読です。
読んでみたいと思います。
by TBM (2007-09-07 00:44) 

ももこ

勝さんの殺陣、最高!市のイジワルなところも好き。
「愛情生活」何度も読み返しました。陽子さんが亡くなった後、朽ちていく花を撮ったアラーキーの写真展をみたんですが、強烈だったです。ひさしぶりに引っぱりだして読み返そう。
by ももこ (2007-09-08 00:35) 

ルースターズ

>ズルイ…けど、賢くない奴。様
そうそう、あの夫婦というかあの2人も素敵ですよね。
寛容なのでしょう。旦那そして、旦那が創り上げるものに。

家庭という縛りが無ければ、さほど無茶出来ますよね。
でも1人より2人ならば、もっといい物が産まれる必然は否めないと
想います。
良き伴侶は、良き成果や結果が必然的に生まれるのだなと
そう実感しました。

そうあるように努力するのではなく、
自然の暗黙の中で、自分たちで探すことが大切なのかもと。
そう想います。
話すより感じろ!ってことですかね(笑
by ルースターズ (2007-09-16 10:22) 

ルースターズ

>Lo-Fi 様
きっと世界中まだ、僕を猛烈に好きな人はいて。
僕も猛烈に好きになる人がいるかもしれないのかもしれないけど。

そんな余白すら塗りつぶす時間。
作って探していきたいっすね(笑

どこかにいますよ、きっと(笑)
僕は早々に結婚しちゃったけど(笑
by ルースターズ (2007-09-16 10:24) 

ルースターズ

>kurohani様
最近想うのです。
つまらなそうにしている女の人を見ると、
ドキッとしてしまうことに(笑

陽子さんの写真って、少し陰がある感じが堪らなく美人に見えて。
妻の一番綺麗な顔を最初から最後まで愛してた人なんだなって。
そう感じています。
by ルースターズ (2007-09-16 10:26) 

ルースターズ

>TBM様
荒廃の中に存在する、瞬間的な輝く美しさの
本当に一瞬を焼き付けることが出来るやはり天才なんでしょうね。

同じものを見ても、着眼点が違いすぎる。
そして、そのどれもが美しく見える。

街も花も、そして女性も。
ため息。
by ルースターズ (2007-09-16 10:27) 

ルースターズ

>ももこ様
このネットが無い生活。
1日に2本は座頭市みてました(笑

いじわるだけど、かっこいい(笑
そうそう、「このいけず♪」みたいな(笑

僕もその写真集みてみたい・・・。
by ルースターズ (2007-09-16 10:29) 

ミヤコライス

今、友達に借りて読んでいます。
8年も経った記事にコメントを残しても読んでもらえないかもしれないけど、書きます。

私は昨日恋人と、人は結局ひとりなんだという結論を出したり、彼に愛することってわからないと言われたり、苦しいなあと思いながらも、強く生きていきたいのです。
男と女がさぼったら、っていうのが、お互いに特別だと思える関係っていうのが、私の心の中で消化して彼に伝えたいことです。
だから、2人である意味がちゃんと存在することを気づいてほしいです。
なんだかわけのわからない話ですみません。
ここまで読んでいただけたら、それだけで幸いです。
by ミヤコライス (2015-11-22 02:58) 

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