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1950-12-16 [INFOMATION]

今まで書いたことも無かったし、書くつもりも無かったけど。

僕がチケットを買って、会場に行かなかったのは、たった1度だけ。

あの日、かぁちゃんが幾度目か。
病に負けて病院に搬送された日。
僕は、新宿駅の雑踏を抜けて。
雨が降り、雨だれが溜まる道をなぞりながら、地元に戻り病院に向かった。
見慣れた病院の廊下と消毒液の匂いも、あの頃の僕には日常でもあった。

「人生でこんなにも辛い事があるのか?」と感じた事象。
順風満帆だと錯覚してきた人生の道程において、
かぁちゃんの病気以上に、辛いことなんて存在しなかった。

かぁちゃんの病気は、俺の「当たり前」を崩し、
自分自身の中でどうしようもない日常が、常に居座る感覚すら存在した。

決して、真面目に期待通りに育ったわけじゃないから、
裏切ったり、嘘をついたり、約束を破ったり、かぁちゃんの掌を喰らったことだって、
1度や2度のことじゃなかった。

かぁちゃんのようになりたくなくて。
でも、かぁちゃんを愛していて。
そんなことを繰り返しながら、何時の間にか齢を重ねながら、かぁちゃんもまた齢を重ねた。

揺られる埼京線の中。
駅の交差する赤羽駅。
地面を踏む感じを確かめながら、感情がズレないように、丁寧に心に虫ピンを刺して。
一歩一歩。確かに前に。
「重い」足取りを、「想い」に変えながら。

その後、辿り着いた先にあったベッドも、また見慣れた光景。
この当たり前が、心を狭くすることを知ってた。
白いシーツに横たわる姿を見て。
消毒液に浸かった空気を吸い込んで、深呼吸。

かぁちゃんの病を知って、涙をたくさん流したけど。
泣いて病が治るわけじゃないからと。
涙は忘れる事にした。
だから、泣かない。

搬送される時は、ほぼ会話は不可能な病状だから。
高いところから落下する点滴の雫を眺めながら、珈琲を呑み。
かぁちゃんへの安堵を確認したのち、1人実家に戻り。
遣り残された家事を片付け。

のち、8階の狭いベランダに出て。
煙草を一本吸った。

28年の間に変わった風景を眺めながら、小さな頃見た景色と重ねながら。
駅までの真っ直ぐな景色は、区画整理で随分見通しが良くなった分、
周りは高いマンションが立ち並び、大きな電飾の看板は姿を消した。

道行く人を眺めながら。
雨上がりの匂い。
開かない傘の花。

変わり果てた景色の先、無くなった電飾の看板の場所に、虹がぼんやり浮かんでた。

今までこのベランダで、虹を見た事はなかったし。
少し驚いて。
瞬きを時々して。
しばらく柵に手をかけ眺めてた。

ハイライトの煙と虹が消えるまでの時間を。

日比谷野外音楽堂の「 SION&THE MOGAMI 」のチケットは財布に閉じこまれたまま。
あの日、おそらく同じ頃に野音にも虹がかかったと知った。

「同じものだったのかな・・・」と。ありえない話だけど、そんな気持にもなった。

忘れられない日でした。
あれから、また2年近くの時間が経ちました。

そして、かぁちゃん。

誕生日おめでとう。

たとえ、今またシーツの海を泳いでいても。
また来年もあなたに「おめでとう」と。
そう言いたいのです。

今夜、代官山UNIT。
SIONに逢いに行ってきます。


※画像は 「s mashingmag.com/」


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もく☆

こんばんは☆
肉親の病気って本当につらいですよね。
わたしの両親も色々と持病をかかえているので、
実家からの電話は怖いです。

>>比谷野外音楽堂の「 SION&THE MOGAMI 」のチケットは財布に閉じこまれたまま。
もし、わたしがルースターズさんと同じ立場だったとしても、
ピロウズのチケットを財布に閉じ込めたまま、
病院へ向かいます。

お母様、お誕生日おめでとうございます!
by もく☆ (2006-12-16 22:40) 

ルースターズ

>もく☆様
コメントしずらい記事にありがとうございます。
実家からの電話もメールも、随分慣れて来てしまい、
それが逆に自分への負い目です。

ありがとうございます。
誰か1人でも多くそんな言葉をかけてもらえることは、嬉しい事です。
by ルースターズ (2006-12-17 09:43) 

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