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6度の春を迎えるから。 [INFOMATION]

今の生涯で一番嬉しかった誕生日プレゼントは、母から貰った財布でした。

あの頃、音楽もファッションも何もかも定まらず。
ただ周りの流行にふらふらと流され。

ふらふらと漂着した品物に、さほど愛着があるわけでもなく。
傍から見れば、流行だけは抑えてる程度の輩で。
そこに自分の主張なんて無くて。

どこで知ったのかは覚えてない。

右も左もボンボンだらけの私立の学校で。
ファッション雑誌なんかいくらでも氾濫してたし。
どこがキッカケかなんかだなんて覚えてない。

ただあの頃から、「COMME des GARCONS」という響きは特別だったし、
バイトもしてない高校生に、安易に手に入ることなど許されない敷居の高さがあった。

当時のボクらには、ブランド品の流れも多く。
皆、一様ににルイヴィトンからグッチ、プラダな流れは黄金だった。

思えば、あの頃からこの類にはほとんど興味がなく。
あのモノグラムの魔法にかかることは、この生涯無いのであります。
しかしながら、何か特別なものへの憧れや意識は人一倍あって。

あの頃、通学の時に履いてたドクターマーチンも。
高校に上がる頃。
上野で買ったもので。
母からお金をもらって。
お金握って。
1万円。

上野で、あのマーチンの箱を手に入れた時には、世界が小さく見えたもので。
何度もハコから靴を出しては、紐を通したりソールを眺めた。
本当に何度も。
車窓の上野から京浜東北線を流れる景色の中で。
1つ宝物を抱えて帰ったことは、今も鮮明に覚えてる。

毎日の通学で。
靴墨をきれいに塗って。
光らないように、また削れてもすぐに補修をしたボクのマーチンは、
とてもきれいな黒だった。

周りとは違う履き方を心掛け。
決して汚くしなかったのは、かぁちゃんが小さい頃から言う
「靴だけはしっかりしたものを履きなさい」
という1つの家訓にも似た教えを、忠実に守ってた自分の礎。

あの日買ったマーチンは、思春期の全てを支え。
11年の後。
ボロボロになってしまい、踵が裂けた後天寿を全うした。
2年ほど前の話。
捨てるときは、断腸の思いだった・・・。

逸れたが、財布である。

うちはべらぼうに裕福な家庭ではなかったが、
みすぼらしいものなどは、一切持たせない親だった。
自分自身が、小汚い格好をしては、とうちゃんやかぁちゃんに怒られる図式は、
今もあまり変わらないが(笑)、親自身は綺麗な服を好んだ。

少々なりとも自我はあったが。
かぁちゃんが買ってきた服を徹底的に拒まなかったし、それも踏まえて。
小汚い古着を着まわしてるだけの、その辺の小僧だったわけで。

そんな中。
FREESTYLEの財布に別れを告げたく、出会ったのが
「トリコ・コム・デ・ギャルソン」だったのです。
通常川久保玲氏が出掛けるコムデギャルソンとは少しラインが違うんだけど。

生涯忘れたことがない言葉の1つに
「誕生日欲しいもの無いの?」の言葉。
16歳になり、初めて聞かれた気がする。
何か特別な洋服をくれたり、小遣いをくれたりしてたのに。

かぁちゃんは、誕生日にそう訊いてくれた。
これからは、押しつけたものではなく。
自分で選び報告することを義務づけた。
ただ浪費せずに物を買うようにと、言われた気もする。

16歳。
ぼくはかぁちゃんにポケットベルが欲しいと言い。
怒られるかと思ったが、至極すんなり買ってくれたことが、今でも不思議に思う。
思えばあの頃から、なんとなく1人の人間として認めてくれてたのかもしれない。

その後、我が家の電話が黒電話からFAX付の電話に変わった。
ポケットベルを打つことの不便さを親が感じたようで。
学校から変えると、電話が新しいことにびっくりした。

17歳。
ボクは、かぁちゃんに財布が欲しいといった。
ボクはそんなことがない限り、親に物や金をねだる様なガキじゃなかったので。
欲しい物を言うのも言い慣れてなく。
少し居心地が悪く、話したことだけは今でもよく覚えてる。
「欲しい財布があるの?」という問いに、ボクは「ある」と答え。

池袋の西武だったかな。
tricot COMME des GARCONSで財布を買った。
茶色の小銭入れがボックス型になってる。
革も良くて。
それでいて、金色のコムデギャルソンの文字が誇らしげだった。
かぁちゃんに見せるとかぁちゃんは、「いいわね」と一言言った。

書いてて思い出したけど。
買ったとき、凄く嬉しかった。白いハコも未だ取ってあったんだって。
そして、かぁちゃんにちゃんと報告して、レシートを見せて。
おつりを出したら、「あげる」って言われて。
そのお釣りを、まだ新しかった財布に初めて入れたんだった。

なんだか、自分が買った物で初めて褒められたんじゃないか?と思う。
ボクのセンスでかぁちゃんに褒められた物より、
「なんだそれ?!」と言われた物の方が圧倒的に多い(笑

この日以降。
この財布と、5年ほど同じ月日を過ごす。

しかしこの財布は、自分の服装やライフスタイルの変化と共に
浮いた存在になってしまう。

でも今以て、この財布はこれから先でも、忘れられない逸品だし。
思い出も深い。

バイトで自由になった金で買った財布は、数度の損傷の後、
修理を繰り返し天寿を全うしたが、このトリコの財布は未だに大切に取ってある。

先日。
中学受験を合格した娘さんがいて。
彼女の合格祝いで財布をプレゼントとなった。
1日中。
新宿界隈で、100個は見た財布の中で。

このtricot COMME des GARCONSの財布は未だに色は変われど、その姿は変わらず。
相変わらずの気品と使い勝手を兼ね備えたままで。
トリコにいたのであります。
ボクが買ったときは2種類だったかな。今は5種類だそうです。

あれから12年。
思わぬ形での再会で。

12歳にプレゼントするには、少し背伸びしたモノになったけど。

あの頃ボクが通った最上級の価値観を、七海ちゃんにプレゼントした。
彼女が新しい世界に踏み出し。
春を過ごし、思春期を通過する時間の中で。

あの財布が、共にいてくれたら何より幸せに思う。
ボクがあの財布を持ってた時間は、とても大切な時間だったし。
そしてあの財布はどんなブランドにも負けない誇りみたいなものが宿ってた気がする。
その誇りと共に。

これから私立の中学に通う、女の子に渡すことができたことは。
また1つあの財布が自分にとっての少し違った思い出になった気がする。

おめでとう。

これから過ごす6度の春の毎回が。
貴方にとって、より良い積み重ねになることを心からお祈りします。


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tatemiccham

朝っぱらから、いい話で泣きそうになっちゃいました。。。NICE!
by tatemiccham (2008-02-19 07:23) 

ベルベット

マザコンのオイラにはとても良い話で・・。

今日は親孝行しようかな~。

良い話しを有難う!!
by ベルベット (2008-02-19 19:38) 

クリニカ七海

お財布ありがとうございました。
私も楽しい学校生活を送りたいと思いますヽ(*^з^)人(^з^*)ノ
by クリニカ七海 (2008-02-19 19:58) 

ぽ絵描き

愛に飢えていたのか?わたし、ネットハウスで
今涙に濡れながらよんでおります、、感激
素敵なお話です、さっきのとんこつラーメンも
あったまったけど、、心もHOTHOT!でござる
by ぽ絵描き (2008-02-19 20:45) 

ルースターズ

>tatemiccham様
そんなべらぼうにでもないと思うんですが(苦笑
でもありがとです(笑
by ルースターズ (2008-02-20 22:02) 

ルースターズ

>ベルベット様
男子たるもの皆マザコン(笑
by ルースターズ (2008-02-20 22:03) 

ルースターズ

>クリニカ七海ちゃん
(笑)
ブックマークがあのPCにあったの?!(笑
すげぇびっくりした(笑

うん、まぁ読まれてもなんも恥ずかしいことはないっ!
楽しくなるといいねぇ!春から。
むしろ読まれて嬉しい。
コメントまでありがとねっ♪
by ルースターズ (2008-02-20 22:13) 

ルースターズ

> ぽ絵描き様
愛の話、っつーかおめでとうの話なんだけどな(笑
とんこつラーメンって苦手。
つーかラーメン嫌い。
by ルースターズ (2008-02-20 22:15) 

ポ絵描き

感激したということですわ。ラーメン嫌い?めったに食べないけどね。食の嗜好は人それぞれやもんね。母の考えかたが共感できたの~子供にはわからへんやろね~親の心子しらず
by ポ絵描き (2008-02-20 22:55) 

ルースターズ

>ポ絵描き様
(笑)親の心子知らず。
久しぶりに聞いた言葉(笑
その逆も然り、子の心親知らず。
結局人間というのは、基本単体だという考え。
でも、1人じゃ生きられないというのは、矛盾かもですね・・・。
by ルースターズ (2008-02-21 08:08) 

柴犬陸

お財布は毎日使うものだから、思い出になりますね。
私は父からプレゼントされた、キーホルダーを大事にしています。
もうボロボロになったけど、父の命日になると思い出すことの一つです。
by 柴犬陸 (2008-02-21 11:00) 

kurohani

素敵なお話ですね。コムデギャルソン、変わらぬ頑固さとアヴァンギャルドさがあってかっこ良いです。
by kurohani (2008-02-22 23:09) 

ルースターズ

>柴犬陸様
ありがとうございます!
財布、長く使うと金運が下がると言いますが。
元々金運なんか無いわーい!と笑って見せます。

父ちゃんにも財布を買ったことがあります。
父ちゃんは買ったり貰ったりすると日付を書く癖があります(笑
今のボクにも若干それがあります(笑
by ルースターズ (2008-02-23 16:28) 

ルースターズ

>kurohani様
頑固さって美学ですよね。
美学があるというのは、強い信念があるってことで。
そういうのは、凄く自分には難しいことで。
それが憧れ。
憧れってあるのとないのとじゃ違うので。
それをかっこいい物と賞賛したいです。
by ルースターズ (2008-02-23 16:35) 

NO NAME

>子の心親知らず。
それは親になってはじめて、子の心をしらずとも、親は偉大だった
というところから来てるんです。決して意味は反対語ではないの。
一人で生きられないから、人生のドラマボックスが人に希望や欲望
をあたえちゃうのであります。で、、歌もできたりする、、楽しい~。
お父様、ナンバーズですね、おもしろい。私も真似しようっと。
by NO NAME (2008-02-23 16:55) 

ルースターズ

>NO NAME様
なるほどー。
しかしながら、逆の意味で捉える考え方もまた、いとおかし。

結局のとこ、てめぇが親にならねぇと親の偉大さがわからない
なんて、なんだか乏しい感じがしますけどね(苦笑
ボクはその意味では使いたくないって、思います(笑

煩悩って良く出来てるなって納得します。
それが喜怒哀楽すべてに通じて、色んなことがあるのなら、尚更に。
by ルースターズ (2008-02-23 17:08) 

DEBDYLAN

ルースターズさんの周りには愛がいっぱいだね。
ルースターズさんが贈られたり、贈ったり。
何か羨ましいっす。
by DEBDYLAN (2008-02-23 23:01) 

ルースターズ

>DEBDYLAN様
(笑)
そうなんっすかねー(苦笑
年下には基本無償の愛を。
同じ年のヤツラには、同等の愛を。
年上の方には、見返りの愛を求めてます(笑

でもボクが好きだから、その人にしたいと思うからやるのであって。
そこに見返りは求めちゃいけないと気づくのに、随分時間がかかりました。

ボクが想ってるほど、相手がボクを想ってくれなくても。
そこでボクがやることは、そういう見返りを求めてるわけじゃないから。

逆のことだってあると。
ボクが想う以上に相手が、嬉しく想ってくれてたり。
そういうのって気持ちだから見えない。

難しくもあり、嬉しくもあります。
by ルースターズ (2008-02-24 10:33) 

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