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「ぐるりのこと。」 橋口亮輔監督 [君にMOVIEを!]

何より、この映画の執着で感服するのは、時間の経過。
2時間20分近くの映画の中で、「空白の10年」を埋める。

この空白の10年と言う言葉を知ったのは、オバマ大統領の発言で。
バブル崩壊後、日本の10年を示す。
原爆の空白の10年は周知だったが、これは素直にビックリしたもので。
自分のド真ん中青春が「空白の10年」って(笑)

この空白の10年が、背景。
そこに流れる事件や災害。

しかしこの物語で大切だと思うのは。
「鬱」に対峙したときの、長くの時間。
半年で再び自分と向き合う人もいれば、そうではない人もいる。
その背景の中で、時間のかかった症例。

中途半端で描かず、その過程の混迷を断片的に残しながら物語が進む。
進行してる実感はある。

ボク自身は「うつ」とは無縁だが、ボクの友達には、この病を長く患った友達がいる。
彼女が最も苦しかった時代ではなく、外に出るためのリハビリの過程で、彼女と出逢った。
このあいだの沖縄旅行では彼女も一緒に行ったぐらい。
彼女の周りで、昔彼女が極度のうつ病を患ったことなど、知らない人の方が多いだろう。

その時に感じたことを思い出した。
彼女は、ボクやかみさんと酒を吞んだ。
飲み続けたというニュアンスで間違いないだろう。

「求められている実感があった」と笑ったことがある。
鬱の波で外に出れないときには、携帯の電源を切ってしまう。
現代、携帯の電源1つで社会と完全に遮断されてしまう条理を感じたもので。

決まって、実家に電話して彼女の母が電話に出る。
いいから出してくれ、そして受話器のムコウの彼女に
「さっさと来い」
こう言ったのは、1度や2度ではない。

少しやつれた彼女は、近所の我が家に飲みに来て。
千鳥足で酔っ払って帰った。

誰かの存在、それも少々厚かましいぐらいのものでなければ、
人は誰かに求められてる実感をしないものだと思ったりもする。

愛されてるとか、愛してるとか正直よくわからないのに、
でも誰かに求められたいと思うのは大いなる矛盾。
それでも生きるし、誰かを好きになるし、笑っていたいと思う。

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今回、この映画で主演の木村多江は、日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を受賞した。

商業映画、ドラマの二番煎じ。
テレビ局のバックアップで成り立つような映画ばかりの中で。
映画は作れて、こんなに素晴らしいフィルムは存在するし、そこで悠然と泳ぐ俳優たちもいる。

鬼気迫る。
メイキングも見たが、凄まじいものだった。
フィルムに中でしか呼吸出来ない俳優をしばしば見るが。
昭和の名優に近い、見ているコッチが息苦しくなるぐらいの表情をする。
木村多江はそんな女優だった。

少ない映画の時間の中でありながら、見えない描かれない時間の経過の
輪郭が十分に感じる演技だったと思う。

安易な映画はセットをふんだんに変えたり、白髪を増やしたり。
視覚的な部分で、時間をまわす。

でも、俳優の演技で回る時間は、映画としての時間を忘れてしまう魔法であり、
違う人格を演じる、底力だと思った。

時間の経過と快方を感じる為にカレンダーというのも、仕掛け。
西暦で見せるんじゃない。カレンダーの書き込みの景色。

見過ごす部分無く、落ちる感じは自らを追い込むギリギリの感じ。
不安定を演じる。もはや自身もギリギリの不安定。
極論、演じると以前に当事者になってしまったら、もはや役もへったくれもない。
完全に「佐藤翔子」だった。

リリー・フランキー演じるカナオは、緊張感の無い感じがこの映画のたわみだと。
橋口監督が、「この人しかいない」というニュアンスがわかる。
この映画の細かい描写は、わかる人にはわかる、そんな優しさが覗く。

詳しくは書かない。
でも、カナオの優しさの細かい部分は、とっても温かい。
ポットも金閣寺もよくわかる。
鼻を舐めるのも、喧嘩の空気を崩すのも。
「愛する」という意味の本質的な部分を橋口監督は理解しているのだと思う。
だからわからないボクでさえ、なんとなく輪郭を感じれたものであります。

dl_img3.jpg

先日、「子供について」という話を地元の先輩としたが、ニュアンスはよくわからなかった。

子供を見て、子供を愛しいと思う。
そして妻を見ると、この子供がいるのはこの妻があってと実感すると。
妻が愛しくなるというのだ。

子供というファインダーを通さないと、妻にたどり着けない実感がよくわからない。

ボクは夫であるが、子供というものが存在しなくても、
現時点で、今を一緒に生きることを契約したような実感が結婚であった。
でもそこには、契約破棄も破産もある。

子供がいなくても、2人で笑って生きていたり。
何年に1度。
支えてもらってるという実感を得られえれば、それで生きていける。

証が無くても。
ただ互いに顔を合わせて、少し労い。少し手を繋ぎ。テーブルで食事をして、SEXもして。
そういう日々の生活の中で実感しにくいものを、無理に実感する必要はない。
決める必要もない。

ボクはカナオほど優しくはない。
妻も翔子ほど、物事を決めない。

ただ、ボクはこの映画を見てとても熱くなるものがあったし、
妻も随分前に映画館に行って見たときに同じような話をしてた。

夫婦と言う証明は、紙切れだけのものであり。
互いが個であり、同体ではない。
ボクは運命共同体という意識は希薄。

しかしながら知らず知らず、支えあう部分が多分に出てくる。
一番話したい相手で、一番話したくない相手でもある。

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トマトを頬張るシーン。

「水やってくれてたんだ。」

この言葉が凄く良かった。
深く暗いトンネルの中、差し込む光が無ければ、
そこが地上からどれくらいの場所なのかもわからない。
左右なのか上下なのか、まったくわからない。

差し込む光は、真っ直ぐ差し込む。
屈折しない。
だから、目指せば地上まで最短距離で歩ける。

意識しなくても、光になってるときもある。
意識して差し込む光もある。

大切なのは、そういう光になれるかどうか。
深く難しい問題。

でもその1つの方法がこの映画の中にあって。

見回す暗い景色の中で、光の存在に気付くことが出来る人は幸せだと。
そう思う。
あとは真っ直ぐ進めばいい。

そしていつか何かの時に、その人の光になればいい。

誰かの光。そして、そこからまた光。
反射を繰り返して、世界がやさしくなればいい。

ぐるり見れる人間へ。
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コメント 12

namaneko

「描いたこと」「演じたこと」も 
もちろん素晴らしかったのですが、
「描こうとしたこと」がすごいなって
思えた映画でした。
by namaneko (2009-03-03 15:46) 

FUCKINTOSH66

熱いぢゃないかいっ
by FUCKINTOSH66 (2009-03-04 11:52) 

みっきーを

いやがおうにも、「人間」を感じた映画でした。
by みっきーを (2009-03-07 01:08) 

むうさん

おもしろそうな映画ですね。見てみます。
「ボクは夫であるが、子供というものが存在しなくても、現時点で、今を一緒に生きることを契約したような実感が結婚であった」
同感です。
by むうさん (2009-03-08 00:52) 

kurohani

この映画面白そうですね。リリーさん好きなので観てみたいです。
by kurohani (2009-03-08 17:04) 

ルースターズ

>namaneko様
メイキングの橋口監督の号泣でも伝わるように。
凄く根気もいるし、気力もいる。
ありふれてる社会の題材でありながら、描くのに色んなものを
磨耗する。

そうやって削った断片がフィルムに焼きついてる感じもします。

by ルースターズ (2009-03-10 00:39) 

ルースターズ

>F66様
ボクはいつだって、熱いですよ(笑

by ルースターズ (2009-03-10 00:39) 

ルースターズ

>みっきーを様
それも、現代の人間を。って感じでしょうかね。
by ルースターズ (2009-03-10 00:41) 

ルースターズ

>むうさん様
まだシーズンまでありますしね(笑
是非!

結婚って、なんだか当たり前のように。
家買って、子供生まれて。子供育てて。
みたいな感じがあって。そういうのがとても気持ちが悪くて。

最初は妻(配偶者)との生活が基準。
それ以降の生活は配偶者との生活の中でのおまけなんっすよね。

そういう根本を忘れないようにとは思ったりします(笑
おまけで喧嘩したり、違えたりするのはバカバカしい。

by ルースターズ (2009-03-10 00:44) 

ルースターズ

>kurohani様
リリー贔屓のボクらには、たまらんもんがありますよ(爆笑
by ルースターズ (2009-03-10 00:47) 

柴犬陸

日本アカデミー賞では、「おくりびと」が受賞ラッシュだったから、木村多江さんの受賞は目立ちましたね。本当に良かった~。
数年前、紀伊国屋サザンシアターのロビーで彼女をみかけました。
全然普通の格好で、芸能人らしいとかはなかったのに、はっとするほどキレイで、それで気付きました。
どんな芝居だったか忘れたけど、メジャーなものではなかったのは確か。
ちょっと意外に思ったものでした。
それ以来、気になる存在です。
by 柴犬陸 (2009-03-14 09:35) 

ルースターズ

>柴犬陸様
元々は舞台女優さんのようですね。
突き詰め方が、舞台やフィルム向きな印象。

凄く美人というよりは、ハッとする美人。
確かにきっと通り過ぎたら振り返ってしまう感じの美人。

樹木さんの舞台見て感動したとインタビューで言ってましたが、
本当に舞台の原点を忘れてない女優さんだなと。

ボク舞台って、少し苦手なんですが興味はあります(笑
by ルースターズ (2009-03-14 11:57) 

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